← back to index
彼にとっての旧い友人
ドリーム小説 廊下に出ると官吏が驚いた顔をして二人を見た。女嫌いでも有名な吏部侍郎が女を連れているからだろう。
これはもしや絳攸の男よけに使われたのだろうか、それならば大いに効果がある。日ごろ女嫌いで通っている上に百合姫様の指導の賜物の外見のため、絳攸はそっち方面の官吏に襲われやすい。普段は影の仕事だが、相手や場合によってはも自ら手を下して来た。主上の所までの道すがらその意味の驚愕の視線を感じると、それに追い討ちをかけようとさらには絳攸と親しそうに話した。
「初におめにかかります主上」
ひさしぶりの執務室で膝を折ると、彼は少し驚きそして少し寂しそうに笑った。そんな彼の前に点心を差し出す。
「お茶にしません?」
「ああ、茶を淹れて来ます」
絳攸が出て行くと妙に上機嫌な劉輝はこそっとに尋ねた。
は何故その様な格好をしているのだ?」
「白…母の趣味でして。それとこの姿ではと名乗っています」
は茶を飲みくすくすと笑った。平和だ。
「そうそう、燕青の事ですけれど」
「燕青?誰の事だ」
「え、絳攸知らせてなかったの?」
「何の事だ?」
廊下でのまま絳攸は敬語無しでに訊いた。
「あ、じゃあ良いです。その内本人から言って来ると思うんで、二人とも忘れて下さい。今はそんな事より女人受験導入の事の方が大事ですから。それと主上今日は何でそんなに御機嫌なんです?」
「秀麗の所に遊びに行くそうです」
「うむ。夜這いだ!」
微妙に意味が違う気がする劉輝の発言はほっといて絳攸に訊く。
「内容は?」
「秀麗の食事と二胡と静蘭と一緒に一晩だそうです」
の頭に何時もの夕食に泊りが付くだけと記憶される。
「私も行って良いですか?」



劉輝達より少し早く邵可邸に着いたは文に目を通していた。
「これは、主上も運が無いと言うか、何と言うか」
「彼が来たら私は行きます。あなたはどうしますか?」
全く春の事を彼は聞かないと思いながらは軒から剣を降ろして来た。
「剣を持ってきて良かったよ。黄尚書の邸と言うのは納得出来ないけど」
何も黄尚書の所で無くともと思っていると、劉輝と絳攸、楸瑛がやって来た。
「いらっしゃい主上。残念でした」
「何がだ?」
そう訊いた劉輝だったが、から渡された文を読むにつれてぷるぷると震え、邵可は申し訳なさそうに謝る。絳攸と楸瑛が横から、縁が切れたとかもともと繋がってなかったとか劉輝は言われた。
「だったら、結び直せばいいんだろう。この邸に行くぞ!だいたい燕青って誰だ」
「私の旧い友人ですよ。ちょうど今居候してまして」
友人か、とは思った。自分と燕青では到底当てはまらない言葉だ。静蘭から事情が説明され理解した劉輝は青くなったが、心配ないと静蘭は言った。もそう思う。今回は数が多いので面倒だが、今まで茶州の追っ手を散々退治してきた腕前だ。それよりもは楸瑛のわくわくとした目に引いた。
「で、どうします?お三方。私と彼は行きますが」
春以来彼はの名を呼ばない。
「行くに決まっている。でなければ、何しに来たのかわからん」
「まったくですね。で絳攸はどうする?」
「後ろから礫でも投げてやる、と言いたい所だがやめておく。お前は良いが兄上に会ったたら大変だ」
「ひどいね」
邸につくと、ぐんぐん仕掛けをかわしながら先に進んで行った彼らを尻目に、は続こうとする絳攸を引っ張って表から堂々と入っていった。使用人に主の場所を聞き、足を進める。
「良いんですか兄上」
「敬語は無し。…黄尚書は私の師匠の一人だから問題無いよ」
離れから出てきた使用人に黄尚書へ伝言を頼む。
「じゃあ、絳攸は彼に説明して秀麗と一緒に……食べ物と飲み物を用意しといて」
「ああ。兄上、怪我なんかするなよ。何なら楸瑛を盾にしてもかまわないからな」
「一応藍将軍よりは強いから大丈夫だよ」
返事をしながら、はそれは無理だろうと思った。藍家の人間で、さらに龍連が最も慕う兄という時点で、彼を盾になど出来ない。絳攸と別れ庭に行くと、静蘭が髪に引っかかった葉を落としているのが見えた。
「今は勘弁。今夜乗り切ったら話すよ。約束する」
州牧の事だなとは思った。皆に近付いたに燕青が最初に気付く。
「お、はちゃんと表から来たんだな」
燕青はにっと笑い、文にも書いてなかったのに頭良いな、と言った。
「何で言ってくださらなかったんですか」
「そうだぞ、ずるいのだ!」
「絳攸も表から入ったみたいだね」
「当たり前ですよ。絳攸に塀登りなんかさせられますか?怪我でもされたら何されるか。それにこの邸には私はいつでも表から入れるようになってるんです」
「ああ、そうでしたね」
「説明してほしいのだ。兄…静蘭」
ちらと視線を寄越した静蘭にどうぞと促す。
「彼は国試の前、黄尚書に勉強を見て貰っていたのです」
「なるほど」
「で、どうしてそれを静蘭が知ってるんだい?」
来た、とは思った。さすが藍将軍、主上には悪いが目の付け所がやはり違う。これは年齢の差か、それとも榜眼及第の実力か。はもう一度寄越された視線にどう答えようか迷ったが、同時に四人は剣の鍔をずらした。何か来る。しかも速い。
「ちょいまち。俺の知り合いかも」
現れた影は、静蘭達が苦労して抜けて来た道をかなりの速さで離れに向かって行った。
「なんだあの小猿は!敵じゃ無いのか」
「敵ではないようですね。離れに一直線ですから」
「敵じゃ無い。けどこんなにぞろぞろ敵さん連れて来なくても」
その「敵さん」は罠を避けれなかったようで、次々と悲鳴が聞こえてくる。それでも「敵さん」は確実に進んで来ていた。
「ま、ぼちぼち行きますか」
「こちらはただの加勢だ。お前、責任もって片付けろよ」
乱暴な口調の二人の横で、仲良いなとは思った。
「ちょっと物足りないかな?」
余裕の微笑みを浮かべる楸瑛の横で劉輝は叫び、は適当に持ってきた剣を構えた。

← back to index