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相当おかしくなっているとしか思えない
ドリーム小説 絳攸と秀麗は勉強中。静蘭は外から見張り。残る邵可はどうするかと待っていたが一向に動く気配がない。そろそろ見切りをつけるべきだろう。
「燕青殿少しよろしいですか?」
「あー何ですか」
次の言葉に迷うに、邵可は茶器を持って立ちあがった。
「それじゃあ、私は」
「すみません。邵可様」
「いえいえ」
笑顔で邵可が出て行くのを見送り、は燕青の方に向き直った。
「秀麗殿のご飯は気に入られましたか」
「いやー文句なしですね」
「普通に話してかまいませんよ」
「いえ、でも」
「何だか、むず痒いので」
「あ、はい。じゃあそうする」
「ところで、燕青殿。茶州の治安はどうでしたか」
「今はあんまり良くないぜ」
詰問のような会話だなと思いながらも続ける。
「茶家はどうなってます?」
「さあ、俺たちにはよくわからない事だからな」
自然に燕青は言ったが、にはそれが嘘だと知っている。
「州牧殿はともかく、鄭補佐はどうなさっているでしょうね」
「…………」
「何か知っています?浪州牧」
数泊して燕青は口を開いた。
「…やっぱり、知ってたんだな。かわいい顔して静蘭並に性格わりい。何、悠舜の知り合いとかか?」
「…いえ、別に、直接お会いした事はありませんよ。それよりも燕青殿。最後に一つだけお聞きしたい事があるのですが」
「もう全部ばれちゃってるし、何でもどうぞ」
尋ねなければいられない自分に腹が立つ。静蘭と和解出来ない上に、これでまた、まともに眠れない夜を過ごす事になるだろうに。それでもなお、確かめずにはいられない。
「――――鎖蝶をご存知ですか」
凍死しそうな殺気が襲う。その視線には笑って返した。それは珍しくも家族に見せる微笑。
「よかった。覚えていたのですね」
この胸に溢れる感情を何と呼べばいいのかわからない。けれどここから秀麗の部屋が遠くて良かった。静蘭が今ここに現れると面倒だった。
「李侍郎のお兄さん」
です」
「じゃあ。どこでその名を知ったんだ」
「秘密です」
そう答えてはぐっと身を乗り出し、燕青の耳に囁いた。
「探してみたらどうですか」



翌日、登城したは、兼丁から共に書翰を運びつつとある噂を聞いた。
なんでもそれは急速に広まっている噂で、霄太師が東方諸島の特産で夏バテに効く超梅干を手に入れたと言うものだ。
「で、その信憑性皆無な噂に官吏達が飛びついたわけか」
「はい」
「この人手不足に、仕事以外で体力を使うとはね。戸部の中には?」
「……丞官吏が見当りません」
「解った。念のため霄太師に聞いてこよう」
「お持ちしましょうか?」
兼丁はそう言ったが、は断った。今でさえ彼の方が重いのだ。
「いや、いい。それよりも兼丁。少し顔色が悪い気がするが?」
「これは、もともとです」
「あまり無理しないように。倒れられるぐらいなら休みを取ってくれた方が良いから」
倒れると復帰に時間がかかってしまう。それよいも休んで疲労を取ってくれた方が良いのだ。
「……はい。倒れる前には休ませていただきます」
少しして兼丁は答えた。その間に倒れるまでする気だと、は半ば諦めながら頷いた。
兼丁と別れると、は霄太師を探した。
道すがら所々で霄太師の行方を聞いた所、噂は尾鰭がつき、今や猛暑にやられた死者までがたちどころに復活する事になっていた。
もし超梅干が本物なら、死者の家族や友人は、墓を掘り開けて死人に梅干を食べさせるつもりだろうか。
この暑い中を走ったせいで、少し汗ばんだ服が気持ち悪い。
「―――いた」
丞官吏と霄太師。抱えている壺らしき物が噂の超梅干だろう。は二人の前に回りこむ事にした。
「待ってください霄た、うわぁ!」
「なんじゃ、おぬしもか!」
は霄太師を無視した。
今日は手伝いが来る日。思ったより時間が過ぎてしまっている。さっさと戸部に帰って秀麗に仕事を振り分けなければならなかった。
「ここで何をしているんですか丞官吏」



は何となくスッキリして戸部に帰って来た。横にはうな垂れた丞官吏が、の書翰を持っている。は彼を一度クビにし、今日来る手伝いの方が役に立つだろうと言ったのだ。それで頭が冷めたのだろう、冷静に非を認め、彼は今から黄尚書に叱られる事となっている。
人不足のせいでいつもより静かな戸部が何やらさわがしい。見ると黄尚書の零囲気が冷ややかだった。どうやら手伝いが遅れて来たようだ。たしか絳攸が連れて来る事になっていたのだった。黄尚書も絳攸の方向音痴は知っていいる。
「黄尚書」
きびすを返していた黄尚書がふりむいた。丞官吏とを見る。
「何をしていた」
「妻のために超梅干を追いかけていました。」
本人が答えないので、脇からが答える。横では秀麗が唖然と黄尚書を見ていた。やはり仮面に驚いたらしい。むしろ普通な燕青が意外だった。
「来い」
「は、はい」
怯えながら丞官吏が部屋に入っていく。一刻もしない内に戻ってくるだろうと、は配分する仕事を決めた。
「紅秀」
呼ばれて秀麗ははっとして黄尚書の仮面を見た。
「はい」
「まずは李の指示に従え」
「はい」
「これからよろしくお願いします。秀くん」
「あ、景侍郎。こちらこそお願いします。李官吏もよろしくお願いします」
ぺこりと秀麗は頭を下げた。
「よろしくお願いします。秀…くん。ではまず、そこの三つを府庫に返して、一冊目の続きを二冊借りてきて、ついでに邵可様にこれを渡して、代わりにもらった書翰を黄尚書へ。燕青殿は秀くんと府庫に行って、ここに書いてあるのをよろしくお願いします」
自然に自分にも仕事が言い渡され、本の題名が書かれた紙を受け取ってから燕青は聞き返した。
「え、俺も?」
自分は手伝いではない。
「はい、お願いします。すみません景侍郎ここは……」
すぐに、次の仕事に取り掛かったに、実はものすごく人使いが荒かったんだと秀麗と燕青は思った。しかしそれも、しばらくして黄尚書から指示を出される時までの事であった。黄尚書の人使いは最高級に荒かったのだ。
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