← back to index
その若き王。許しを後悔せんと誓う
ドリーム小説 「ふざけるな!秀麗の命が、何だと?なんだってそろえてやる。国中のどんなところからでも、どんな材料でも探してきてやる。だからとっとと室に戻ってさっさと毒を消してこい!」
「主上……」
「絳攸!?」
楸瑛が絳攸の手の器を取り上げた。
陶老師でも解毒のわからない薬。それの入っている器を持っていた絳攸の様子がおかしかった。手が小刻みに震え、目線はただその器のあった手に向けられていた。
「李侍郎、どうなされたのです?」
「…あ……これ……は」
この香りは。
辿り着いたのは、可能性にもあげたくない答えだった。
「絳攸!何か知っているのか?」
劉輝に詰め寄られて、絳攸はぎゅっと手を握り締めた。
「この毒は……兄上の作られた毒です」
周囲に動揺が走った。
の、だと?」
「はい。これは数年前……兄上が作られた『鈴蘭輝毒』」
「それなら、陶老師でも解毒薬がわからないのも。うなずけるね」
楸瑛は劉輝を見た。
「どうします?主上。殿を捕らえますか?」
「余は……」
混乱している劉輝の耳を霄太師の声が打った。何時現れたのだろうか、霄太師がそこにいた。微笑を浮かべる。
「――主上。彼を探さなくとも、解毒薬が手に入るかもしれません」
劉輝はゆっくり顔を上げた。



遠くに見えていた桜が散り、ふわと初夏の風が感じられる。
――――約束をした。あの時の行動の訳は今になってもわからないけど。
「秀麗は今日も元気だ」
は答えない。誰もいないかのようにただ、庭を見ていた。
「静蘭もほぼ全快になった。秀麗も静蘭も絳攸も、そなたに会いたがっている」
ここ毎日、彼はを訪ねて来る。だが彼のする事には反応しなかった。
けれど、彼には今日になってやっと言える言葉があった。
。そなたは今日より邸に帰るといい。そして出来れば彼らにも会ってほしい。駄目か?」
その言葉に初めて――約一月ぶりに彼の前で、は動いた。
その灰色の目が劉輝を見ていた。
「―――許すのですか?」
劉輝は頷いた。
「そなたは霄太師に命じられ動いただけだ。自分の意思でしたのは、香鈴の毒に香りの強いただの香料を混ぜる事、そして静蘭の腿の手当てだけどろう?静蘭を、余の兄を手当てしてくれた事に礼を言いたい。そなたがいなければ、静蘭はもっと危なかった」
は再び庭に目を戻す。
「……約束を、したんです。何があろうと霄太師に従うと。たとえそれが、花を受け取った主を裏切る事であっても」
「そうか……だからそなたは……」
「そう。受け取る訳にはいかなかったんです」
人を裏切るのは行けない事。そう昔教えられた。
「聞いても良いか」
「何でしょう」
「そなたは何を、霄太師と約束したのだ?」
は苦笑して。それから、少し照れてたようにはにかんだ。
「……世界の始まりを」
「世界の始まり?」
「ええ。私を私と教えてくれた人です」
劉輝はそっと目を閉じた。いつまでも鮮明に覚えている事がある。
聞こえてくる自分を呼ぶ優しい声。頭を撫でてくれた手。
―……あにうえ。
「……そうか」
と同じ顔を劉輝はして、言葉を続ける。
「霄太師からの伝言だ。約束どおり、そなたの仕事は終わったと」
知っているとは返した。
「―――――昨日、景侍郎が病気になった。戸部へ行ってくれるか」
は原因を悟り、ため息をついた。間違い無くあの人の仕業だ。
なら答えは、決まっている。
「はい。謹んで、お受けいたします」
← back to index