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かぞくのぬくもり
ドリーム小説 「かぞく」
一人きりの湯船で、は呟く。
「かぞく」



当たり前ながら、は人だ。人から生まれ人の乳を飲み成長した。人の子。
家族もいた。だが、それにしてはにとって家族と言う存在は希薄だった。
ふとした瞬間、忘れてしまうようなそんなもの。
は今だ、家族の半分ほどの存在も知らない。
父、母、長男。その下に男兄弟が何人か。もしかしたら女もいるのかもしれない。
その中で好きに会える者などいなかったし、それ以前には外に出る事を許されなかった。
離れとその周囲から出る事を許されたのは一度。彼の元へ行く時だけ。
そんなに、時々会いに来てくれたのは長男だけだった。
子供は無自覚ながら愛される事を望み、そしてそれを叶えたのは長男だった。
そのころのには長男が全てだった。長男を通して父の命令を、世界の全てを見ていた。
そこに戸惑いなどあるはずも無かった。



「失礼します」
が入室すると、その人は満面の微笑で招き入れてくれた。
「お久しぶりです、百合姫様」
ぎゅっと抱きしめられる。その温かさに戸惑いはしても、拒む事など考えもしない。
「大きくなったわね、
「………はい」
「いつまでやっているんだ」
再会を不機嫌そうな声で邪魔されて、百合は冷たい声を返した。
「いたの?黎深」
「これと同時に来ただろうが!」
「気付かなかったよ」
哀れ、黎深。心の中では呟いた。
「で、決まったか」
ふかふかの寝台に腰掛けながら、投げかけられた問いに、は表情を強張らせた。
「ちょっと黎深」
そんな二人の間に、僅かながらの過去を知る百合が割って入る。
「何だ。何か文句でもあるのか」
「そうじゃなくて……!」
「黎深、百合姫様」
は言い争っている二人の前へ、進み出た。そして、じっと二人を見つめる。
「正直な所を申し上げてもよろしいでしょうか」
「ええ」
百合は笑顔で、黎深は目線で。
「家族とは、どんな物なのでしょうか」
「…………………」
長い沈黙の後、互いに二人は視線を合わせた。頷く。
そして何故か、は寝台の中央と入れられる。
「あの?」
どちらに顔を向けたら良いのだろうかと思案しているうちに、さっさと上着を脱いで二人はそれそで反対に滑りこむ。
黎深と百合にがっちりと挟まれて、は困惑した。
「決定よ」
百合の声に、顔をそちらに向ける。
「ごめんなさい。私達にもね、そんなの分らないの」
百合は微笑む。
「でも、言葉に出来なくても、私は黎深と絳攸を家族だと思っている。あなたにもそんなふうに思ってほしいわ」
前にある温かい笑顔。後ろの気配。優しく髪を撫でてくれる手。
そんな物だろうかと思って、すんなりは眠りに落ちた。

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