人の話を聞きやがれ
絳攸は一人苛々と仕事をこなしていた。
それは彼の仕える王がまた脱走したためだった。
それだけならばいつもの事なのだが、今日は彼の相方で、同じ花を賜った片割れの楸瑛が不在の日だったのだ。
(よりによってアイツのいない日に……)

なので、執務室の扉が開かれた時、絳攸は馬鹿王がやっと帰ってきたと思った。
「遅い!一体…」
「やあ、元気か愚兄其の四心の友其の一、絳攸よ」
笑顔で入ってきたのは、藍龍連だった。

「なっ……なんでお前が」
「うむ?絳攸は王にいびられお疲れか?」
「いびられてなどいない!」
「そうか、それはよかった」
「ああ、そうだ……って、だから、何でお前がここにいるんだ?」
「絳攸に用があって来た」
「楸瑛でなく俺に?何の用だ?」
聞く体勢になった絳攸に龍連は一つため息をついた。
「全く、やはり愚兄は愚兄だ。愚兄より私を選べ絳攸」
「はあ?何のことだ」
「それさえも言えていないとは愚兄はやはり愚兄。それはそれでよいが」
「おい」
一人頷いた龍連の服を絳攸はひっぱった。
「何だ」
「一体さっきから何の話をしているんだ。選べだの言えていないだの、分かるように説明してくれ」
「今の場合、愚兄が言えていない事は関係ない」
「そうか、それで?」
「私が絳攸に好きだと告白したことになるな」
「そう………って、なに?!」
「用はそれだけだ。ではまた来る」
「って、おい、ま」
まて、と言おうとした口は振り返った龍連に塞がれた。
しばらくして、口が離れる。
「何だ、これではなかったのか」
もはや何も言えない絳攸をその場に残し、龍連は去って行った。

しばらくして、怒られることを覚悟して戻った劉輝が見たのは、
いつかの吏部官吏達そっくりに、魂がぬけた様に立ち尽くす、部下の姿だった。
笑言十題(群青三メートル手前)
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