寂しいと言ってはだめですか
明け方に降り始めた雨はまだ止んでいなかったようで、外は少し肌寒かった。
庭の木の葉が雨に打たれ、揺れている。
それに誘われるようにして庭に降りる。途端、雨が容赦なく寝間着の体に降り注いだ。
冷たい。けれどこの気分の悪さには調度良いぐらいだろう。

「馬鹿だろう。お前っ!」
そう顔を歪めたのは女嫌いの友人で、
「それで、本当に良いのか?」
そう気遣ってくれたのは若き王。

やめておけ。悲しすぎる、二人とも。

皆が皆、真実を知った者はそう言った。
もっともだった。
そんなことわかりきっていた。
それでも私は、やめなかった。
利用していいと彼はいった。
共に過ごしながら、彼の兄を見ていてもいと。
だから、後悔はやめた。
後悔するのは龍蓮に対して失礼だから。

背後で聞こえた音にはっと我に変える。
振り返らずともわかる。近づくこの気配は懐かしきもの。
見たくないと思うのに、体は彼の方へ。
正面から彼を見る。
「ひさしぶり」
すっぽりと被せられたのは、藍色。
「どうして、ここに……?」
ほとんど固まった思考で、何とかそれだけを紡ぎだす。
そう、今は紫州の藍家別邸住んでいたはずだ。紫の花菖蒲をもらって。
なのにどうして。ここに――藍家に彼がいる。
「雨にぬれてしまうよ?」
答えをそらされた。もしや彼の意思で帰ってきたわけではないのだろうか。
いや、今はそんな事どうでもいい。
彼が、ここにいる。
そんな時を、考え事で無駄にしたくなかった。
だから私は正直に言葉を紡いだ。

「目覚めが悪かったので、頭の中を空にしたかったんです」

あなたの夢を見たなんて言わないけれど。

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瞬情十題(群青三メートル手前
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