この関係に名前を付けるとするならば
ドリーム小説 「絳攸様?」
そう声を掛けられるのははたして何回目だろうか。
確かな事は昼より夜の事の方が多く、たいてい絳攸がさまよっている時だという事だ。
そういう時に掛けられた声に(腐れ縁の奴では無い事もあり)いつも絳攸は助かったと思うのだった。
もはや何回目ともなると、互いに次の行動は決まっているような物となり、何もいわずともは絳攸に背を向け、絳攸は彼女の後ろに続く。
着いた場所は彼女の部屋。こんな夜中に女官の部屋にいるとなるとそう言う関係だと思われがちだが、彼女と絳攸に関してはそう言う事は全く無かった。あくまでも(本人は認めないが)迷った絳攸の府庫的役割を彼女は担っていた。
椅子を勧められ、暫くして出てきたのは何時もの茶だった。一口飲むと、龍泉茶によく似た香りの、けれど違う味が広がった。
気に入ってるんですと言っていたが、彼女の事なので、自分に気を使わせない様に言ったのではないかと絳攸は思っている。何処の茶かは知らないがこれはそれなりの値が張るだろう。
「どれくらい寝ていらっしゃらないのですか?」
絳攸と向き合う形で座ったは、何時もそれを聞く。
「ざっと二日、いや三日ぐらいか」
もはや驚く事でもなくなった日数に自分で悲しくなる。
「あの方は……」
ふうと溜息をは付いた。
「主上付きになられるそうですね」
「ああ……速いな」
「昨日あの方から聞きましたから」
「昨日って、黎深様は最後まで………!?まさか」
「はい。寝ているのを叩き起されました」
にこりと何でもない事のようには笑う。なんて事だと絳攸は頭を抱えた。
「すまない」
「絳攸様が謝られる事ではありませんわ。…それより、すぐにお休みになりますか?」
「ああ、いつもすまない」
「いえ」
が長椅子に布団と枕を持ってくる。其の間に絳攸は茶器を片付け急いで戻ると、まさにが長椅子に転がろうとしていた所だった。それを間に腕を滑り込ませる事で止める。
「絳攸様」
そう彼女はこの部屋の主でありながら、絳攸が来た時は進んで長椅子を使おうとするのだった。それは絳攸の日々の仕事量を知っているからなのだが、絳攸はそんな事は当然知らない。
「駄目だ。俺が寝る」
「駄目です」
「駄目だ」
そして絳攸は百合の教育のもと、部屋の主であり女人でもあるを長椅子で寝かすなど持っての外だと思っていた。そんな二人が長椅子にどちらが寝るかで争うのは何時もの事で、結局寝台の端と端で眠る事で妥協するのもこれまた何時もの事であった。特には秀麗が(男好きと思って)劉輝と寝たのを知っているため全く抵抗が無かった。



「やあ、絳攸。昨日見たよ」
わざわざ侍郎室まで来て、いやに嬉しそうな声を出す同期の男を絳攸は胡散臭そうに見た。
「いやー君がねー」
「何が言いたい」
言外に忙しい、早く帰れと告げる。
「君が女官の所を訪れる日が来るとはね。やっと君にも春が来たみたいで私は安心したよ」
言われた言葉に一瞬思考が追いつかなかった。
「え、あ、あれは!」
何故か顔が赤くなるのを感じた。
「隠さなくても良いのに。ああいう女性が好みなのかい?」
「違う!」
「いや、朝帰りとは君もやるね」
「だから違うと言っているだろうが!だいたいアイツは……」
「私がどうかしましたか?」
突然聞こえた声に、振り返り気軽に挨拶をした楸瑛とは違い絳攸は固まった。だがそれも、楸瑛の言葉を聞き一瞬で動き出す。
「相変わらずあなたは美しいですね」
「何を言ってるんだこの常春が!」
「なんだい絳攸、焼き餅かい?」
「それは違いますわ、藍将軍」
答えたのはだった。
「とこで、これは何の話なのですか?」
「あ、うん。昨日女官の部屋に絳攸が泊まった話なんだけれど」
「それでしたら、睡眠を取る場所として利用されただけです。絳攸様、黎深様は此処にいらっしゃいますか?」
「いや、ここにはいないが」
「そうですか、ありがとうございます」
さっさと去って行く背に楸瑛は苦笑いした。
「…………絳攸の思い人が、まさか、殿とはね」
「何か言ったか?」
「うん?・・・ふふ、あっさり否定されたね。絳攸」
「……あたりまえだ」





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