ほんとうに、ほんとうに
ドリーム小説 は右利きの人間だ。
「こうですか?」
「違う。鸛鵲が先」
彩雲国の字はほぼ漢文と変わらないのだが、なかなか順番が会わない。漢文が苦手だった学生時代の記憶を必死に掘り出すが、そもそも鸛鵲なんて書けなかったりする。
「一寸の光陰、ふかから?」
「一寸の光陰、軽んずべからず」
「むう」
書物を読めばこんなもの。ちなみにこれは子供用の書物らしい。腕が治るまでに覚えたいのだが、先は長い。
叩かれた扉に、今日もうお昼かと思っていると、燕青が開いた扉から入ってきたのは悠舜だった。あわてて、彼が持っている昼食を受け取りに行ったが、燕青に先に取られ、なおかつまだ動かないように注意された。
「で、わざわざ来たってのはあの話か?」
は首を傾げた。何の話だろう。悠舜が目で燕青に頷いた。
「腕が治ってからの話なのですが」
来たとは思った。ここには置けないという事だろう。わかっている。
「私の養子になるつもりはありませんか?」
「…………………………………はい?」
言われた言葉が理解できない。
「嫌ですか?」
とりあえず、自分の思っていた事を口にした。
「えっと、ここには置けないと言われると思っていたんですが」
そう言うと二人はまさかと言う顔をした。
「字も書けないのにか?」
「安心してください。そんな事しませんよ」
ああ、何てことだろう。泣きそうだ。
見ず知らずの私に。
この人達は。
うれしい。
うれしい。
そして私は頷き、鄭悠舜の養子となった。
王位争いが本格的になる前年、浪燕青が州牧になって二年目の事だった。
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