秘めて隠して、押し殺して
ドリーム小説 小雨の振る中、思わず漏れたといった声に、燕青は足を止めた。瞬間に浮かんだ顔はここにいるはずのない少女の顔。彼女は今、部屋にいるはずだ。
足音を消し、声のした方に向かう。
は廊下にいた。その視線の先にあるのは灰色。微動だにぜす、空を見上げる。
消えそうだと思った。そしてなぜだろう、ある官吏を思い出した。
彼は雷に打たれて、もうこの世にはいなかった。
つ、との視線が燕青を捕らえ、彼は観念したように少女の横に立った。
「風邪ひくぞ」
「大丈夫です。もう、戻りますから」
そう言って、部屋の方へ向かって歩き出したの後ろに燕青は続く。
「あいつと、仲良かったのか?」
は止まらなかった。
「…………さあ、どうなんでしょうか」
まるで、自分に言っているようだと燕青は思った。



「大丈夫か?」
「大丈夫です」
答えた声ははっきりとした物で、先ほどの消えそうな感じは微塵も無い。けれどなぜか燕青は、このままではいけないような気がした。
一人にした途端、この少女は泣くのではないだろうか。
「一緒にいてやろうか?」
それは、少女の矜持を出来るだけ傷つけないようにと思って口にした言葉だったが、なぜか半歩距離をとられた。
「人の趣味にとやかく言うつもりはありませんが……困ります」
「って、そういう意味じゃ無いって!」
燕青が必死になると、は笑った。
「冗談です」
くすくすくすとなかなか収まらないでいると、燕青は振り返らずに去っていく。
彼が角を曲がった途端。は笑うのをやめた。
「感が良すぎるのも困る」
が、今日は安らかに眠れるかもしれないと明は思った。
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灰恋十題(群青三メートル手前
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