気が付けば君を探してる
ドリーム小説 ボウフラこと楸瑛を夜な夜な追い払い、疲れ顔の珠翠に作ったのがそもそもの始まりだった。其の時作ったのは栗羊羹だったのだが、後日目を輝かした女官達の為に作ったこれを劉輝が口にする事(それでいいのだろうかと思うが)となり、は劉輝付きの女官となった。
はむこうにいたころから劉輝を嫌いではなかった。はじめは犬のようだなと思い、その後はその立場ゆえの孤独を可哀想だと思ってもいた。
劉輝付きの女官となって以来、は夕方になると毎日菓子を持って執務室を訪れる。当初は逐一武官に呼び止められていたものの、毎日ともなれば引き止められる事は無くなり、軽い挨拶を交わすほどとなっていた。
「失礼します、主上」
片手で扉を開くと劉輝が顔を上げるのが見えた。その表情が急に笑顔になる。
!今日は何の菓子なのだ?」
籠から菓子を出し、説しながら茶を入れていく。
「お二人は?」
「まだ帰ってきていないのだ」
持ってきていた紙に菓子を二分包み、空いている机の端に置く。
劉輝と話しながら菓子を噛むと、サクと音を立てて砂糖漬けした果実が口の中に広がった。
甘い。
執務室に入るたびに気付かされる事がある。自分の目が誰を探しているのか。
「どうした?」
「いえ。少し甘すぎたかと思いまして」
「そうか?丁度よいぞ」
「主上はお疲れなのですね」
「頭を使うと、甘い物が必要になるのだったな!」
「はい」
また、さくさくと劉輝は菓子を食べ始めた。
はそれを眺め、再び一口食べた。
菓子の甘さは、まるで自分の様だと思った。
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灰恋十題(群青三メートル手前
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