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懐かし、久々
ドリーム小説 国試が終わり、受験者達はまだ夢の中のころ。は邸のある場所で包丁を手にしていた。ガッ、ガッ、と軽い音を立てながら肉をさばいて行く。やっとの事で大量の肉を鍋に入れたは、おろおろとしている使用人に鍋を頼みそこを出た。
空を見上げ、足を裏方に向ける。めったな事では見つけられないだろう細い廊下を進んでいくと、程なくして見張りの影と出会った。
挨拶を交わしさらに進むと、喧騒が聞こえてくる。記憶を引っ張り出した所によると稽古時間の様だ。
様、どうかなさいましたか?」
薄っすらと汗を掻きながらも、相変わらずの余裕のある態度で、椎は現れた。暗に怪我の事を聞かれ、軽く首を振って否定する。目的を伝えると、小さめの部屋に通された。
懐かしい。それほど多くは無いが、幾度か訪れた事のある部屋に、そう思う。あの頃の私はまだ不安定で、丁度今の秋草の様だった。引き寄せられる様にして窓を開けると、冷たい風が頬を撫でて行った。
様」
声がしてはっとすると、何時の間に入ってきたのだろう、秋草が座っていた。
「久し振りだね」
「はい」
低めの声に無表情。
「どう?この頃は」
「特に変わりはありません」
「私に何か言うことはある?」
お茶を持って入って来ていた椎に、秋草が不快そうにひと睨みする。椎は何でもない事のようにそれを受け止め、退室して行く。
「椎の事をどう思う?」
先ほどの答えを待たずに発せられた突然の問いに、少し間を空けて秋草は答えた。
それは少し戸惑ったかの様にには見えた。
「…………仕事上の仲間です」
「それだけじゃないだろう」
即座の否定に、秋草は今度こそ戸惑った色を瞳に映した。
次の言葉に身構えるのを見て取ったは、それ以上は答えを急かす事は無く、時々庭から吹いてくる風を受けながら、お茶を味わう事に意識を向けた。



耳や首、腕に感じる冷たい感触から、出来るだけ気を逸らす様に努力しながら、は原因である友人を睨んだ。
「どうして君は、私にこんな格好させるのが好きなんだ」
優雅に酒を飲んでいた友人は、それを聞くと眉を上げた。
「こんな格好とは何です。似合うんだから良いじゃないですか」
「耳が重い、肩が凝る」
「失礼な」
玉はプンプンと怒りながら、つまみを口にした。友人であり偶の事であるからも文句を言いながらも飾られるが、これを毎日やっている玉には呆れずにはいられない。
「全く、毎日こんな──……お客さんの様だよ」
「客ですって?」
不思議そうな顔をして玉は出て行った。
玉邸の庭は本人がああなので、派手そうに思われがちであるがそれほどでもない。邸とは対照的にあくまで花の、木の一つ一つを大切にしている印象を受ける庭だ。
この庭は少しばかり生家に似ている。
少しして、一人増える事を告げに来た家人に承諾をすると、しばらくしてから見覚えのない人物がやって来た。
「……楊修さん?」
「おや、分かりますか」
吏部覆面官吏である楊修は、また別人の様な雰囲気を纏っていたが、見抜かれると直に普段の彼に戻った。
「どうぞ」
酌を受けた楊修は、一杯あおる。玉にも酌をし、も続く。どれぐらいぶりだろうか、三人で過ごすのは。
「ひさしぶりですね」
「はい」
その返事におやと玉はを見た。いや、まさか。
「どうでしたか、第十三号棟は」
「何ですか、それは」
「ああ、玉にはまだ言ってなかったね。先日まで礼部官として第十三号棟の管理人をしたんだ」
「あの、恐怖の第十三号棟で?」
「うん」
おやおやと玉は、対してそう思っていない声でお疲れ様ですと言った。
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