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精神錯乱者の救出
ドリーム小説 お茶を頂きながら、は自らの名と、新しくここの責任者となった者であると説明した。その話に続く形で、今の彼らの扱いの話になった。
「十把一絡げで『クソガキ』って……」
「まあ、七人も辞表を提出したらな……それもこれも、全てお前のせいなんだぞ!」
珀明が茶の湯気越しに勢い良く差した先には、全く気にしない顔で影月に抱きつく龍蓮がいた。龍蓮は楽しそうだが、力が強すぎたため影月は潰れそうになっている。
「聞いているのか藍龍蓮!」
「ふむ、それほどの者が我の笛に感動するとは、罪な音だ」
そしてピーヒョロと笛を吹く。
「……………っ!」
怒鳴ろうとした秀麗が、ガクッと両手を床についた。
「そ、そういえば李官吏の笛の音も綺麗でしたねー」
の代わりに龍蓮が答える。
「ああ、は昔あれで稼いでいたからな」
「それって………?」
「旅をしていた頃だね」
「龍蓮さんとですか?」
「少しの間だけどね」
はもっと笛の音が綺麗だったな」
あれで!?と珀明が驚くが、何も答えずは立ち上がって、室の戸を空け回廊に出て戸を閉める。の視線の先、回廊には兼丁が立っていた。
「主上の命により『呪いの第十三号棟』からの速やかな精神錯乱者の救出が行われます。役人総出ですので、李官吏も参加なさるようにとの事です」
「精神錯乱者とそれ以外の区別は?」
「こちらに書かれている者達だそうですが、何せ次々と増えていますので、その場で判断される事になるかと思います」
「わかった。……君はもう私の部下では無いはずだけれど?」
「はい。けれど、私が膝を屈する相手は一人ですから」
あっさり言われた言葉に、は瞠目した。そして表情を消す。
「礼を言う。ありがとう」
自分にそのような事を言われる日が来るとは思わなかった。
「どうしたんですかー?」
語尾を伸ばした少年の声には振向いた。
「何でもありません。少し仕事を思い出したので、先に失礼しますね」
「あ、はい」
しばし影月の視線を感じながら、は進んでいた。



精神錯乱者の救出は以外にも早く終わった。役人総出であったためもあるが、やはり此処を出られると知った救出対象者達の協力が大きいだろう。荷物の整理、移動、泣きながらではあったが対象者達は素早くそれを済ませてくれた。
「残ったのは二割程ですが、又いつか精神錯乱者が出るとも限りません。数名ならまだ行けますが、余りに多い場合は『悪夢の国試組』同様、投獄される可能性もあるかと思われます」
それだけで済めばまだ良いとは思った。龍蓮は悪事を嫌う上、秀麗達がいるので刑吏や囚人の弁当をたらふくなんて事はしないだろうが、精神破壊などを(ここの受験者達とは違い)逃げられない囚人に与えるかもしれない。
龍蓮の部屋に向かいながら、近くの森から入ってきて溜まったままだった落ち葉を見つけ、箒で棟外へ掃き出した。自炊が原則の予備宿舎だが、廊下の掃除ぐらいの事は自分がしても問題ないだろう。第一これぐらいの仕事しか、する事が無いのだ。
全ての掃除を終えた頃には辺りは暗くなっていた。何を食べようかと厨房へと進めた足は、龍蓮を発見した事によって止められた。
「あの子達は?」
「今頃せっせと草々しい鍋を作っている所だ」
「手伝わなくて良いのかい?」
「私は手伝いを申し出たのだが心の友らに止められた。心の友其の一いわく人には向き不向きがある、故に私はを探して来る役目を引き受け此処にいる」
なるほど、確かに龍蓮に料理をさせるのは心配だろう。
「それはそちらで食事を用意してくれているという事かな」
「もとより我らはそのつもりだ。風流に欠ける夕食を貰いに行こうと思ったのはだけだ。なに心の友其の一の菜魂は金銭的余裕の無さから生まれたものだが、実にすばらしい。共に野宿をした頃を思い出そうではないか」
あの頃、四苦八苦しながら料理を作ったものだった。
「それは野宿をした時の味と秀麗殿の味が同じという様に聞こえるよ」
「なに?そんなことはなかろう。心の友其の一の菜の味があの頃食べた菜の味を思い出させると言う意味だ」
あくまで思い出させる味だと言う。
「うん。分かってるよ」
戻ろうかと足を元来た方角へ向ける。
「それより君は寒くないかい?」
「大丈夫だ。そなたの方が寒そうに見える」
龍蓮は言い切り、はそうだろうかと自分の服装を考えた。
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