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藍色の被害
ドリーム小説 「では、行って来る」
龍蓮は早朝、まだが目覚めてすぐの頃にやって来た。
「本当に送らなくて良いのかい?」
は再度龍蓮に訊いた。
「かまわぬ。心の兄がくれば騒ぎになる事は確実。そのような無駄な事にを巻き込みたくはない」
まあ、確かに。龍蓮の存在が注目を集めるのは確実だ。おそらく紅秀麗や杜影月よりも。
「龍蓮」
「何だ?」
「今度からは名前のみにしてくれないか?」
「何故だ。私には何の障害にもならない」
考えを完全に読まれた事に苦笑しながら続ける。
「それでも私が嫌だよ」
「わかった。では、行って来る」
あっさり龍蓮は引き下がり、は部屋から彼を見送ると、普段通り散歩に出かけた。



かの有名な『悪夢の国試組』も使用した予備宿舎第十三号棟は、今や見事外見に会った『呪いの第十三棟』と呼ばれていた。
「予想してたとは言え、すごい事になりましたね、主上」
執務室には辞表片手に飛び込んで来た官吏がおいおいと泣き崩れていた。
「そうだな」
答える劉輝の声も大分疲れてきていた。ちなみに、楸瑛は各方面に謝りに行って、今はいない。仕方が無いので、その官吏の背を摩って茶を出してやる。ぐいと茶を飲みほして、礼部官吏は続けた。
「あ、ありがとうございまず!本当に何とかしてください主上!あれは人間ですか本当に!何ですかあの破壊力は、ていうか物の怪の類としか……」
「つかぬ事をお聞きしますが、何か破壊されたのですか?」
「私の精神ですよ!!」
そう叫んで官吏は気絶してしまった。藍将軍ご愁傷様です、とは思った。いくら謝っても彼の信用はガタ落ちだろう。
これでまた、『呪いの第十三号棟』の管理責任者を決めなければならない。ちなみに今までで七人。まだ初日の夕方なのだが。『呪いの第十三棟』という恐怖の名が広まってしまった以上、礼部の誰がなってくれるだろうか。
「主上。どうやら受験者も無理のようです」
絳攸が嘆願書を見て言った。
「礼部官だけでなければ、私がするのですが」
「やってくれるのか!」
「はい。龍蓮の笛に対する抗体は持っていますので。けれど私は戸……」
「今すぐ黄尚書に印を貰ってきてくれ」
墨が乾く間もなく指示を出され、それに従う事半日。
「あ、ありがとうございます!」
泣かんばかりの責任者代理を礼部に帰すと、礼部配属たった半日にして、は昼間でも薄暗い第十三棟の管理責任者となっていた。当初は折角礼部に配属されたのだから、師に挨拶に行きたいと思ったがそんな暇は無く、荷物を置いて直ぐに聞こえて来た笛の音に横笛を持って音の元に向かった。
意外にも龍蓮の室の前には受験者が来ていた。
「やめろと言っているだろうが、藍龍蓮!お前の笛のせいでちっとも書の内容が頭にはいらないじゃないか!」
少年が扉をドカドカと殴るが反応無し。
「ああ珀明さん。そんなに叩いたら……」
「そうよ珀明の言う通りだわ!あなた全く勉強せずにピーヒャラピ−ヒャラ笛ばっかり吹いて、一体何しにここに来たのよ」
少年を止めようとする杜影月に少年に同意する紅秀麗。珀明と言う名からして彼は碧州の主席及第者、碧珀明だろう。一向に収まらない笛の音と騒ぎに、は引っつかんできた横笛を口に当てた。
「これって」
「『冬氷』だな」
珀明は感嘆の声をあげた。
そのまま冬の冷たい氷を題材にした、おもわずゾクリとするような冷たい音が特徴の曲だ。そして其れゆえに奏者の腕がわかってしまう難曲。
受験者の中に奏者がいたのだろう。笛の音が段々と近付いて来る。
現れた奏者に秀麗の体が反応する。何時の間にか龍蓮の笛の音は止んでいた。
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