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ドリーム小説 彩雲国に生を受けてはや十数年。
新しい体を得て、新しい両親に育てられ、良く今まで生きてきたと思う。
だけど――
「私は物じゃねぇんだよ!」
数日前、前方に山を見つけたは迷わずその山に足を踏み入れた。
服の裾が裂けて行くのを感じながら、それでもは足を止めない。
両親はとても優しい人だった。大切に私をお嬢様に育て、お金持ちの所に嫁がせてくれた。私も私で両親への恩を感じ、愛してはいないもののそこそこ美形で金持ちの男の妻となった。
急に前方に光が見えた。力を込めて、木をなぎ払う。
「きれい…」
自分の状態を悟って十数年、ずっと望んでいた事があった。
これだと思ったのはそれから数年後、
話に聞いた、藍州の九彩江。
ああ、死ぬ時はその山で死にたい。
それがの―前世が登山家であった女の唯一の我侭だった。


「…っ?」
邸とは違う。
「天国…」
「起きたみたいだよ月」
「思ったよりも早かったね」
三つもの同じ顔、着ている藍色の服。
「……藍家当主…?」
「そうだよ、直接会うのは初めてだね」
遠目に、それこそ藍色しか見えないぐらい離れた所で見たことがある。
ぼんやりとした頭で、は思った。
「呈秀莉だったよね?」
確かめる言い方は、思い出しているようで。
「……どうして」
「龍蓮から聞いた事があってね」
の目に、急激に光が戻るのを三つ子は見た。
「りゅ、れん」
「めずらしく興奮してたから、良く覚えているよ」
「そう、ですか」
懐かしいとは思った。藍龍蓮はの初恋だった。
「でどうして此処に来たのか話してよ」
「私達に用事があったんだろ?」
「あ、いえ。死のうと思って」
「死ぬ?」
三つ子の顔から、急に微笑が消える。
「秀莉」
「…っ」
怖い。
「まさか」
「月?」
「大丈夫。私達は君に危害を加えない」
三つ子の一人の行動に、直ぐに二人は感づいた。
「ほら。私達はここから動かないよ」
「落ち着いて。理由は話せる?」
「はい」
ぐっと手に力を入れて、は全てを話した。感情が高ぶっていたからだろう。そのまま怒りに任せて考えも全て話した。
三つ子はそれをただ、聞いていた。
「気に入った」
「実に良いね」
「うんいい目をしてる」
うーんと三つ子は目線を交差させ、その時間には貰ったお茶をすすった。
「楸瑛の、すぐ下の弟の元に行かないかい?」
「あの子は龍蓮が一番慕ってる兄でね。まあ、表には出さないんだけど」
「龍蓮様が一番慕う兄ですか?」
「そう。私達も一番可愛がってる、素直で優しい子だよ」
「でも女遊びが激しくてね。君に止めてもらおうかと思って」
「はぁ」
「何、君はただ行くだけでいい。あずかっている間は遊びを禁止できる」
「諸事情で男性恐怖症って伝えておくよ」
「後、私達の嫁にするってね」
「…………はあ!?何故そうなるんですか」
いきなり始まった話を何とか追っていたは、はっとして声を挿んだ。
「言っただろう?気に入ったって」
「君の考えは面白い」
「そもそも僕らを区別できる人間を自由にするわけには行かないし」
「その男は気に食わないし」
「君の実家と今縁を作れば得する」
「色々な人と出会っておいで」
「お土産も忘れずにね」
「いろんな事を学んで来るんだよ」
たかたかたかとまとめられ、気づけばは藍楸瑛がいる紫州に行く事になっていた。
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