フォルトゥナと共に
ドリーム小説 注意:勢いで書いたもの。長いだろうと思っていたけど、本当に長いです。





1 CE 70 三月一周目。

・クラインは一目惚れと言うものを否定しない。
数年前にそれを身を持って経験したからだ。

愛はすべてに打ち克つとヒルティが言うように。まさに少女には高すぎる障害を乗り越えてはここにたどり着いた。

「『犠牲を清らかならしめよ。自分を犠牲にしたものは、自分を犠牲にしたことを忘れるのが、美しい犠牲の完成なのだ』…っ。ああ、まだまだ私には無理です…」

自作の名言集をぎゅっと抱きしめながら、痛みをこらえる様に体を丸める。

「こんなにお兄様に会えないなんて…!」

アカデミーに入学してはや二週間。
互いの立場はあれど、一緒に行動するぐらい出来ると思っていたのは甘かったようで、クラインの名を持ちながら今だにばれてないと、評議会議員同士でつるむ様になったのアスランとの人目を忍んで声をかけるのは無理があった。
そして鈍いアスランは、今のに気付いていないしこれからも気付けないかもしれない。いっそ気にせずに話かければと思わなくもない。
いやきっとこのまま行けば我慢の限界が来て話かけるだろう。
けれど、そんなの悩みは数日後、プラントの歌姫ラクス・クラインからの通信で解決した。

「アスランへの通信?アカデミー内で?」
『…あらったら、本当に思いつかなかったんですの?おばかさんですわね、ふふっ』
「……言い返せません」

馬鹿にされたが言い返すことも出来ない。すぐさま通信を切り、アスランへと回線を開こうとして…画面に表示された場所に思わず手を止める。

「すぐ下の部屋…?」

部屋着のまま、ベランダに出た。



アスラン・ザラはいい加減にしてくれと叫びそうになってはぐっと耐える日々を送っていた。騒がしい部屋から、避難して夜空を眺めるとながら、どうしてこんな所にきてしまったのだろうとさえ思う。
評議会議員の息子という肩書、纏わり付く視線達、評議会議員の息子達、そしてその中でもとりわけ面倒なイザーク・ジュールという人間。
軍に志願した気持ちは忘れていないないのだが、奈何せん人付き合いの悪いアスランには一度にかかるストレスが多すぎた。もうううんざりだ。特にイザーク・ジュール。
卒業までの半年、彼からの嫌がらせに耐えなければならないんて。
癒されたい。

…」

ここにいるはずの大事な年下の少女。二週間にもなるのに、全く周囲から噂をきかないところを見ると上手く隠れているらしい。おそらくラクスとお揃いだったピンクの長い髪に手を加えたのだろう。染めて括ったりされたら恐らく分からないだろう。そもそも、・クラインは姉が有名すぎて余り知られていない存在だ。確認していないが、今部屋に集まっている彼らも知らないのだろう。

…」
「アスラン…!!」

呼ばれて振り返りながら上を向いて、絶句した。

「!?」

咄嗟に腕をつかみ、逆の手で細い腰を引き寄せる。ベランダに打ち付けることになった背中が少し痛い。けれどそんなことはどうでもよかった。
上の階から飛び降りるなんて。

「アス…」
「危ないじゃないか!?何考えてるんだ!?」

滅多に出さない本気の怒鳴り声に、びくりと腕の中のが震える。

「!しかも髪…」

信じられないことに腰まであったピンクの長い髪は、ばっさりと毛先が肩に触れるぐらいのショートになっているではないか。一体何センチ切ったのか数字を聞くのも恐ろしい。

「軍人になるんんですし…良い機会かと思って…」
「だからって、もったいないじゃないか!あんなにきれいだったのに…もったいない」
「でも、癖っ毛なので毎朝大変だったんです!」
「…それはわかる」
「だから…」

「なにやってるんだ、貴様!!!」

突然割り込んできた声がアスランの腕の中からを奪って、背に庇う。
見れば肩を怒らせたイザーク・ジュールだった。

「なに?」

目の前のアイスブルーの瞳をギラギラと輝かせている男など今のアスランにはどうでもいい。
それよりである。二週間も会えなかったのだ、髪云々も気になるがそれよりもっと話していたい。
アスランは溜息をついた。



「…邪魔なんだけど」

溜息をついた後のアスランの一言に、目の前の彼の髪が逆立つのがわかった。
まずい。

「…ふ…くちゅんっ!」

演技指導ありがとうお姉さま。少し不自然な音になったが、イザークが振り向いたので問題ない。薄着なのも良かった。
何も言わずに見つめる。

「すみません。とりあえず部屋に…」
「ありがとうございます」

後先考えずにアスランの下に飛び込んでしまったことを後悔しながらすすめられた椅子に座ると、ぐるっと円を描くように椅子やベットに座った彼らを見まわす。五人全員評議会議員の息子で、出来れば会いたくなかった人もいる。
目が会うとにやりとされた。
未だに思い出すとどかかに埋まりたくなる。

「とりあえず自己紹介でもしようか。俺は、ラスティ・マッケンジー。モビルスーツパイロット科。アスランと同室なんだ。君は?」

オレンジの髪の少年はそう言って人懐っこく笑った。
もつられるように微笑む。

・クラインです。モビルスーツパイロット科でここの真上に部屋があります」
「まさか、クラインって…」
「そういえば確かに似てるよな。髪の色もそのままだし」

自然と目線が髪に集まる。

「…ラクス・クラインは姉です」

そう、私はあのラクス・クラインの妹。








『はじめまして』と一通り自己紹介を終えた後、くちゅんと今度は本当にくしゃみが出た。

「はい。

すかさず、アスランが椅子にかけてあった彼の上着を差し出してくれる。

「ありがうございます」
「お、アスラン紳士ー!」

前からこっそりが気に入っていた、彼自身の趣味ではないのかもしれない、ベージュのカーディガン。
羽織れば、元からゆったりとしたデザインのそれは随分袖が余ってしまった。
少々だらしないかもしれないが、あったかい。
アスランの優しさと物理的な心地よさに、自然と頬笑みが出た。

「…………?」

さらり、と髪を撫でるアスランの手。

「本当に短くなったよな…」
「軍人には必要ないと思いましたから…実際、楽になりましたよ」
「軍人…?」

実技や早朝の自主トレーニングの後に汗を流したい時、限られた時間の中でとても重宝している。正直、切らなければやってられない。
はまだ長い方で、数少ない女性達はもっと短髪の者も多く、また髪を切る者が増えて来ていた。
それでもやはり、長い髪の方が良いのだろうか。
ラクスと同じなのを求められるのだろうか。

「……から…」
「え?」
「…そろそろラクスと同じ髪型でなくても良いかと思いまして。それにアスラン、髪を褒めるならラクスに対して褒めて下さい。きっと喜びます」
「あーうん…」

アスランの返事は歯切れが悪い。
知っている。アスランがラクスを余り得意としていないことぐらい。
けれどラクスは

「…おい」

思考の流れに入り込んだ不機嫌そうな声は、それまで黙っていたイザーク・ジュールのもの。
婚約者として顔を合わせた時の態度は表面的なものと最初からわかっていたが、にしてもここ二週間で見えた彼は随分と乱暴な少年だった。
特にアスランへの態度が悪い。年上とは思えない。
そもそも婚約者相手においとはどうなんだどうか。

「何でしょうか、イザーク様」

こんなところで最低限でもクラインのを演じなくてはならないのが面倒で、彼を避けて来たのに。私の最優先はアスランで、その邪魔をされるのは気に食わない。
たかが婚約者如きに。

「なぜ貴方がこんなところにいるんですか?」
「……………はい?」









・クラインとイザーク・ジュールは互いの遺伝子相性が非常に良い『対の遺伝子』である。
しかしつまるところ、婚約は利害一によるものだ。
ジュールとクラインの、そして私を気に入って嫁に迎えたいと言って下さったエザリア様とアカデミーに入りたかった私との。
それまで渋っていた婚約の事実とジュール議員とザラ議員の協力を得て、私は父の説得をし、保守派クラインのがアカデミーに入学、軍人になるという事が許可されたのだった。
それを彼―私の婚約者であるイザーク・ジュールは全く知らないらしい。
完全に蚊帳の外だったのだ。ちくりと罪悪感が胸を刺した。

「イザークが女の子に敬語!?」
「イザーク、お前……」
「あの…エザリア様からは何も…?」

彼女が話していないことを私が話すわけにはいかないし、恩も多大にある。

「母上?いや、何も…」
「では、私からは何も言えませんわ。申訳ありませんイザーク様」

彼を甘やかして告げていない?いや、それはないだろう。では何故?
ぐるぐると疑問詞が頭を回るが、どうしようもない。多忙の彼女にわざわざ聞くことではないだろう。
穏やかに微笑んで追及を避ける。

「なあ、イザーク様って…なあ?二人ってただの知り合いじゃないよな?」
「………」

一応男性から言うべきことではないかと、イザーク・ジュールを窺うも反応なし。

「はい。いわゆる婚約者ですね」
「わぉ!」
「ひゅーやるじゃんイザーク」
「こっ、婚約者!?聞いてないぞ!?」

ぐわっしと両腕を掴まれる。少々痛い。
やっぱりと言うかなんというか、アスランは大げさな反応をしてくれた。

「正式にお会いしたのは入学2日前ですから」

つまり血のバレンタインから五日後の2月19日のことだ。
プラント中が悲しみと怒りに包まれた中で、評議員はそれこそ分単位で忙しかったそのころ。
エザリア・ジュールだからこそ実現したことだと、思う。
本当に頭が上がらない。








4 CE 70 三月半ば

そこかしこで、白い息を吐きながら走る生徒達が目に入る。自分の息も白い。
ジョギングを終えたら、近場の長椅子でフリーのドリンク片手に記録を付ける。
それも今日で四週間目。数値は少しずつだが体力が付いて来たとに告げてくれていた。

?」

耳慣れた声に手帳から顔をあげれば、同じ様にジョギングを終えただろうアスランがペットボトル片手に立っていた。

「おはよう、早いな」
「おはようございます、アスラン」

許可を取って横に座ったアスランは記録を取っていないらしく、の手帳を興味深そうに覗き込んだ。
なんだか少し気恥ずかしい。

「俺もつけようかな…」
「そうだね。いくらアスランでも速くなってるだろうし。私の場合は怠け防止にもなってるから」
は負けず嫌いだもんな」
「アスランも相当だよ?」

イザークとの衝突を見ていて初めて知った一面だった。

「……全然知らなかったなぁ…」
「え?」
「……そうそう、昨日教えて貰ったとこ何とか自分で出来る様になったよ」
「それはよかった」

アスランが安堵の頬笑みを浮かべる。
アカデミーには何とか入ることが出来たものの、の成績はおよそその年齢には相応しくないレベルだった。クラインの教育が悪いわけもなく、ひとえに興味のあることしか学ばないのせいである。
入学前から家庭教師をしてくれていたアスランがそのまま勉強を見てくれるようになり、そうこうしていうるちに自然と友人達が分担してに勉強を教えてくれるようになり、誰かの居心地が悪いという言葉でアスランとミゲルの部屋に自然と集まるようになった。
男子寮であるのにだれも反対しなかった所が恐ろしい。そしてきっとメンバーがメンバーなので黙認されている気もする。
今やも、遠巻きに見られる評議会議員の子供達の一員だった。








3  CE70 三月後半

人口の青い空、風はまだ冷たいがなかなかの洗濯日和。

「ディアッカ」
「よ」

誰かに見られるもの面倒だと、少し離れた街中で二人は待ち合わせをしていた。
ラフながらセンスの良さがわかる彼の格好に、人選は間違ってなかったと確認する。
そう言うはラクスの好きそうなワンピースに、同じタッチの白い帽子をかぶっていた。

「確かにラクス・クラインらしい服装だな」
「でしょ?でも、お店や雑誌を見てもよくわからなくて…」

それで女慣れしてそうな、ディアッカに頼んだのだ。
素材を無駄にしているアスランは論外で、イザークを誘うのはにはハードルが高かった。
なので実はアカデミー以前からの知り合いであるディアッカに頼んだのだった。

「んーこの辺りが人気らしいけどな。こことか、そことか…どう?」

指さされたのは、らしい気がする店達。
何となくでそのうちの一つに入る。

「いいかも…?ズボンがいいかな?」

ラクスは絶対に穿かないだろうから。

「…まて、穿いた事あるのか?」
「アカデミーの制服以外ない」
「………長いスカートからはじめたら」
「うん…」

何点か手に取って行く。

「…ディア」
「?」
「服の値段ってこんなもの?安くない?」
「……普通だろ、多分」
「え」
「今まで特注の服とか着てたんじゃないの」
「あ、うん」
「そりゃ値段違うだろ」
「そっか、そうだね」
「試着してきたら?何なら着て帰ってもいいんだし…その服気に入らないんだろ」
「うん!」

結局、ひざ下スカートとブラウス、薄手のカーディガンを着て帰ることになった。他の何点かと着て来た服は袋に入れて貰う。

「ありがとうございましたー」

安い服、店の外まで見送りをしない店員。
服を選ぶ間、放っておいてくれる事。
なんだか気が楽だった。
店を出て帽子をかぶろうとしたら取り上げられてしまった。

「ディアッカ?」
「そんだけ短くなったんだ、大丈夫だろ」
「………でも、落ち着かない」

本当は視線の少なさから、大丈夫なんだろうとわかっていた。
ピンクの髪は別に特別な色と言う訳ではないのだから。
けれど頭の上を風が通って行く感じは、そこにあるべきものが無いようでどうにも心細かった。






4 CE70 四月あたりで。

嫉妬はつねに他人との比較においてであり、比較のないところには嫉妬はない、とかのベーコンは言った。ならばまあ仕方のないことだろうか。
それにしても女一人に男十五六人はないだろう。
さて、おそらくはアカデミーの一室なのだろうけれど…窓に体当たりしたら割れるだろうか。三回だから怪我はするだろう。でも、それしかない。
余裕の表情で近づいて来る彼らを威嚇しながら、そろりと窓から距離を取る。

「……っ!」
「な……っ!?」

ばりんと音を立てて割れてくれた窓から飛び降りる

「……っ」

受け身を取って立ち上がり、現在地を把握し、ダッシュ。
同じ様に飛び降りて走ってくる気配を感じながら、足を必死に動かす。
ここは訓練場の一つ
まさに敷地内のはしのはしにある建物から、から遠くに見える学生寮を目指す。

「!?」

ナイフ投げるとか何考えてるんだ!?

「…っはあ、はあ…」

残念ながら私は体力が余りない。

「……イザーク!!!」

何分走ったのか、運良く見つけた銀髪のおかっぱへと声を張り上げて呼ぶ。
振り返った彼の意外にしっかりとした二腕を掴んで走らせる。

「どう…おい!」
「追われてるのよ!!」
「…血が出てるじゃないか!?……っと、ナイフだと!?ふざけてんのか!!」

イザークもナイフで狙われたらしい。
限界だと告げる体を酷使して走る。
もう話せない。
相手との距離が縮まって来ているのが気配でわかる。
時間と体力の勝負だった。

「……いっ!」射程距離に入ったのだろう。ナイフが頬をかすめる。
頭を狙われた!?まさか殺す気!?
寮が見えて来た。意識が朦朧とする。
何時の間に立ち止ったのだろう。息が苦い。

「……い!……ろ!……………ら」

イザークが何か言っている。

「…ごめ……………きこ…で…」

意識が途切れた。





イザークの一喝で男たちは包囲され、切れたイザークが暴走。結果、全員軍指揮下の病院送りとなったらしい。明らかにアカデミー生でない彼らがどうやって侵入したかなどは、イザークによって気絶せられた彼らの目覚めを待ちながら捜査中らしい。
私が意識を失った後、随分とイザークに迷惑をかけてしまった。

「…………イザーク」
「何だ?」

不機嫌と言うよりは、ばつの悪そうなイザークに向き合う。

「ありがとう。巻き込んでごめん」

こういう時は意識してお礼を先に言う。

「……………」
「……………?」
「…………………………………………ああ」

赤面しながらの、その長い沈黙はなんなのでしょうか。
そしてディアッカとラスティはなぜにやにやしているのか。

「本当にもう大丈夫なのか。医務室にいなくても」
「………誰もいなかったから帰って来ちゃった」

ただ寝るだけだったら自室の方がいいでしょ?と医務室で一人呟いた言い訳をここでも口にする。
アスランの顔が非常に呆れている。

「じゃあもう寝るわ。おやすみ」

ロビーを抜け、筋肉痛の足を若干引きずりながら階段を上る。
明日の実技に響きそうで嫌になる。


「イザーク?どうしたの?」

呼び声に振り返れば、追いかけて来たのはイザークだった。
まだ顔が赤い。

「………はもっと頼ればいい。いや、頼ってくれ。俺に」
「…………」
「それだけだ!ゆっくり休め!」

私を追い越して二階へ、言い逃げ。

「……………男の矜持ってやつ?」

女だからと馬鹿にされたとは思わないが、さっぱりわからない。








5 CE 5月
書類を机に提出して立ち去らずにいると、しばらくして何だと不機嫌そうな声。
その声でさえ、疲れが見える。

「次の予定まで四時間ほどあります。お休みななっていただけませんか、ザラ議長閣下」

議長と言いながら明らかに親子としての情を覗かせて提案する。

「…………議長…いえ、お父様」
「何だそれは」
「いけませんか?」
「……っ、クラインの売女如きが…っ」

頭に血が上りやすく、不器用な人。思わず口に出ただけなのだろう、少し後悔の色が見える。
裏切り者のクラインの子に着くには相応しい呼び名だが、此処まで噂が広まったか。
からかうようにありえないと少し笑う。
当然、睨まれる。
レノアの侮辱だとか考えているのだろう。

「その程度で休んでいただけるのでしたら私には安い物です」
「…お前にはいずれあれの子を産んでもらう」

二度目の言葉に、思わずアスランに似ていると言われる、曖昧な頬笑みを浮かべる。
アスランの子。彼を兄と慕っているので、それだけにはどうも肯く事が出来ない。

「………私ではラクスの代わりは務まりません」

私はあくまで軍人。民衆への知名度や培ってきたオーラが違う。

「そんなもの、後からいくらでも出来る」

ペンが止まる。書類が終わったようなので、各部所へ届けるために纏めて抱える。
すっと、軍人に戻る。

「では四時間後に」
「………ああ」

書類を届け、私も与えられた部屋に戻る。
廊下や各部署で不躾な視線が体に纏わり付いていた。
種類は違えど慣れているのでそれほど苦にもならない。

「出生率か…」

詳しく知らないが書類的にはもう、何のつながりもない銀髪の彼を思う。
前線にいる彼には、恐らくまだ何も知らされていないだろう。
一見冷酷そうで、けれど意外に仲間思いな彼は、私のこの状態を見たら怒るだろう。周囲に殴りかかりさえしそうだ。
ふ、と苦笑して、三時間ほど眠りに着いた。








6  CE 7月
反射的にアスランの前に体を滑り込ませていた。
駄目だと思った。止めなければと思った。
この人に愛する息子を打たせてはならないと、ただそれだけを思って。

だからそうやって傷を作ったを、庇われたアスランがどう思うかなんて考えもしなかった。
いつのまにかすとんと意識が途切れ、目を覚ました場所はプラントではなかった。
安堵と怪我とこのごろの寝不足が相まって、二日も眠り続けたらしい。

脱走艦、エターナル。
フリーダムとジャスティスの専用母艦として建造された高速戦闘艦。
それにアークエンジェル。ラクス・クライン。キラ・ヤマト。アスラン・ザラ。
生きていてくれた、ディアッカ。

…!」
「…アスラン」
「寝てなきゃだめだろ…」

確かに右肩に二発銃弾を受け、結構な出血をしたた体はまだ重い。
普段ならばも休息を取っていただろう。
けれどここは脱走艦で、ラクス・クライン達の考えもは正確に知らない。
今の状況は軽い捕虜なのか、それともラクスの妹、すなわち思想を同じとする彼らの味方とされているのか。
付き添われながら部屋に戻って、差し出された昼食はごく一般的なもの。
これだけ見れば、捕虜扱いとは思えない。
そしてこうして気にかけてくれるアスランに他意はないだろう。
だからと言って、油断も出来ない。



ここが何処か理解してすぐ、ラクス達と話したいとアスランに頼んでいたのが通ったようで、一通りのメンバーが揃っているらしい。

元ザフト軍に元地球軍、オーブの生き残り。

「ザフト軍所属、・クラインです」

顔ぐらいは知っている砂漠の虎は、ようと陽気に片手をあげてくれる。
続けて挨拶してくれようとした地球軍の女性を手で制す。

「申訳ありませんが、お話を聞くまで…いえ、正確に理解が出来ればですが、私が貴女方に賛同できるかどうかはわかりませんので…此処にいる方々は皆さん彼女と同じ考えという認識でよろしいですか?」

彼女、ラクス・クライン。クライン派の広告塔。プラントの平和の歌姫。ピンクの妖精。
さて今は?

「では…ラクス・クライン、貴女の考えを教えてください」










コーディネーターとナチュラル。互いを滅ぼすための戦争を止めること。

そのための力。強奪。

「………憎しみが新たな憎しみを産み、互いを否定し、滅ぼすまで戦う。現在の戦争はもはや虐殺と言う他ありません。憎しみの連鎖を断ち切ること…わたくし達はそれを目指して立ち上がったのです」
「…………言うまでもないでしょうが、ザフトや地球連合の所有物強奪、占有、私的流用。法や国家組織を持たない貴女方がする行為はいかなる理由があれ個人の信念に基づいた武力行為であり、テロ行為と見なされます。戦争終結後に罪に問われることは逃れられません」
「わかっていますわ」

信念を感じさせるしっかりとした返答。

「…パトリック・ザラの事なら、戦争終結後には身を引いていただくことになってます。彼のカリスマ性を議会は認めますが、合理的であはりません。あくまでコーディネーターの利益を考えた上での平和を私達は目指しています。そのためには勝たなくてはなりません。ちらはナチュラルを滅ぼすつもりはありませんが、向こう相変わらずそのつもりなのですから」
「わたくし達と共に闘ってはいただけないのですね」
「残念ながら、戦争には勝たせていただきます。それだけの切り札もプラントは用意してます」
「本当に、ナチュラルの方々を滅ぼすつもりは無いのですか」
「パトリック・ザラとその賛同者を除いて。次の議長はカナーバー議員を予定しています」
「では、父が死んだのは何故ですか」
「言ったでしょう。コーディネーターの利益を優先すると。あの人の考えは回帰論。危険を冒してまで助ける価値はないと判断されました」
「……っ!貴女の父ですわ」
「ええ、そうです。それがどうかしましたか?ラクス・クライン」

にっこりと笑う。

「……残念ですわ」
「こちらは得るものがありました。ありがとうございます」


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