狂気に酔いしれ哀しみを愛し夜を捧げる
かしゃんと音がして、ティーカップが割れた。
中に入っていたほとんど減っていない液体が床とソファーをぬらす。
ああ、染みになると自分にしては珍しくそんな事を思った。
たしかこれは弄りがいのある部下をを無理矢理連れ出した時に選ばせたものだ。
投げやりにどうでもよさそうに選ばれたそれを買ったのは何故だろう。
きっと彼はもう、これを自分が選んだ事さえ忘れているだろうに。
それぐらいの価値しかないものなのに。
自分の頬にぺたと相手のぬれた金髪が張り付く。たまらなく不快だ。
「どいてくれませんか」
「嫌」
期待などしない、興味も無いから目も合わせない。
何度目かの言葉に、帰ってきたのはやはり何度も聞いた言葉。
至近距離から感じる視線。相手の体重がずっしりとかかって重い体。
ああもうこれに話し掛けるのも不快だ。
どうせ何をしようと、これからされることは変わらない。
愛する兄がらみの嫉妬を交えた根本からの嫌悪。
触るのでさえ嫌だろうに、それでも嫌悪を滲ませながら自分に触れなければいられないほど兄が愛しいだなんて。狂ってる。兄弟二人そろって本当に。
くすくすくすと狂った笑いが聞こえる。
二人だけ終われたのなら幸せだったのだろうか。兄が弟だけを見て、弟も兄だけを見る。
影の一族にはピッタリなのかもしれない。
けれど光が注いでしまった。その光は兄が思ったのとは違い、光は光なりに影を纏っていたけれど。
兄にとってはそんなもの見ないようにすればいいような微々たるもので。
不快な手が乱暴に刻印を暴いていく。びりっとその手が、使用人服を破いていく。
感じる熱い互いの息はさらに不快感を上げさせるものでしかなくて。
兄は光を求め、そして弟の異常さを感知してしまった。そして無意識に自分に弟と共通の異常さも感じてしまう。そして兄は弟を恐怖するようになった。それは醜い自分から目を反らす行為で。
行き場を無くした弟は、さらに影を纏うしかない。
「・・・っ、あ・・・・・・」
あがる声は女のよう。卑猥に満ちて、けれどやはり頭は褪めたまま。
常に冷静に終わりをまっている。
これが狂っているのなら、私はどうなのだろう。
なぜこれの狂いを向けられなければならないのだろう。
不快、不快。
それはきっとすっかり染みがついてしまっただろうこのソファーを買ってしまったのと同じで。
きっと考えるのは互いに同じだ。