ten feet tall
ドリーム小説 というまだ90にも満たない少女は真面目だ。

兄のグウェンダル閣下の影響か、はたまた本人の性分か、現魔王が来るまではこの国唯一の黒き目の持ち主であり、さらに自分の親友も入れた彼女の兄上達に目に入れても痛くないほどに可愛がられているのだから、楽をしようと思えばいくらでも出来るだろうにと…の仕事ぶりを知ってから何十年、ヨザックは常々そう思っている。
彼女が黒き目の持ち主だからこそ頑張るのも、恐れ多くも抱える負い目があるのも知っている。
けれど最近ではこの姫の護衛は、別名・休ませ役ではないかとさえ思えてくる。
自分が来るまで一体、彼女はどんな生活をしていたことやら。

徹夜は普通、倒れるまで仕事をするのも普通。
彼女はあくまで、グウェンダル閣下の補助でしかないというのに。閣下の制止も聞きやしない。
貴方が倒れたら閣下からお叱りを受けるのは自分だと少しきつめに言ってからいくらかましになったとは言え、まだまだ目が離せない。いや、護衛なので本当に目を離すわけにもいかないのだが。
少しは同い年で現魔王の婚約者であるヴォルフラム閣下を見習ってほしいとさえ思う。

ほらまた。

「あらごめんなさいね、ヨザック……」

ふらりとした彼女を支えると、そのまま近くで彼女の顔色を確認する。
「少しは寝て下さい」
「これが終わったらね」
「……いや、こんな量そうそう終わりませんって」

先ほど見たグウェンダル閣下の机に積まれた資料よりもよほど多い気がするのだが。

「なら、なおさら。グウェン兄様だけに任せるわけにはいかないわ」

しっかりとした口調で断言されても自分の事を棚にあげられては困る。

「ったく本当に…少しは仕事を休んで、お姫様らしく我儘を言ってもいいんじゃないですか?」

思えばこれが、引き金だった。



その時部屋にいるのは私と王とコンラッドだけだった。
失礼しますと、妹が王がいる場に入って来る事も珍しいのに、その後には彼女の護衛のグリエ・ヨザックまでもが入ってきた。
複雑な表情をしているところを見ると、どうやら言われるままに付いて来ただけらしい。
さん」
「ご機嫌麗しゅう、ユーリ陛下」
「そんな堅苦しい言葉はいいって何時もいってるのに…」
緊急のことではなく問題も解決をしたことを確認して、は話し始めた。
「私が余りにも仕事をしすぎだとヨザックが言うのですよ。兄様の方がずっとよっぽどだと私は思うのですけれど」
の後ろで話題に出たヨザックが引きつった微笑みを浮かべる。
けれどそんなことは私も再三に言ってきたことだったというのに、今頃の理解するところになったらしい。
「そうだろう」
「…コンラット兄様にもそう言われたわ」
しゅんとは悲しそうな顔をする。
相変わらず可愛い。
「それを陛下にご相談したら、休暇が嫌なら何かしたいことや欲しい物はないかと言うの。それで私思ったの。我儘もたまにはしみようかと」
「それはいいね」
コンラットが同意する。
「というわけで、ヨザックそこに立ちなさい」
「はい?」
「いいから…動いてはだめよ」
真剣にはヨザックに命じる。
ペチッとの手がヨザックの左頬を叩いた。
たた…叩いた!?左頬をっ?
さん?!」
真っ先に声を上げたのは王で、それに次いでコンラートがに駆け寄る。
!」
自分が何とか動けたのはその後だった。二人してを取り囲む。
「今すぐ取り消せ!頼むから!」
「嫌です」
にっこり
!」
「ヨザック。……グリエ・ヨザック!!」
「は、はいっ!」
呆然自失していたのだろうヨザックが、珍しく、あわてて返事をする。
「私の我儘は以上です。時間を取っていただいてありがとうございました陛下」
「あ、うん」
「……兄様達これに関して彼に責任はありません。お叱りは私にお願いします」
そういって、は私達の腕をのけて扉へと向かう。けれど、立ち止った。
「ヨザック?」
「はい」
「仕事を放棄する気かしら貴方は」
「…いいえ、めっそうもない!」
そうして護衛を連れては仕事に戻っていった。


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