ある傍観者の現状
ドリーム小説 まだまだ新人メイドであるの私の朝一番の仕事は、紅茶を入れて、陛下を起こすことである。
当初、何故自分が選ばれたのだとか、回りの嫉妬とか暗殺の心配どうこうとか気になる事は多々あっただが、雇われの身である私は何も言わずにかしこまりましたと答えるしかなかった。
ブウサギやら良くわからないものやらを避け、ベッドに近付く。
「陛下、ピオニー陛下」
声をかけただけでは、やはり駄目か。
「朝です、へいかーぁ」
肩をゆさゆさとゆらす。反応があったので、抱えていた服を傍に置いて、ベッドの後ろに回った。
「失礼します」
横になったままの陛下に一言声をかけ、金色の髪に手を伸ばす。
陛下の髪は硬い。そっと根元から解きほぐしていく。
下敷きにされている部分を除いて櫛を通し終えるころになって、やっと陛下は目を開ける。
「おはよう…
「おはようございます」
上半身を起こした拍子に赤い痕などが見ても、平常心、平常心と呟いて挨拶をして、紅茶を差し出した。



先日まで働いていた店の常連さんは恐れ多いことにピオニー陛下だった。
それが分かったのは彼に連れられた家の主人が見間違えのしようのない赤目鬼畜美形軍人であったからで、彼が私の冷たい手を引いて軍人の迷惑そうな顔にもめげずにずかずかと入って行ったことでほぼ理解した。
とういうか普段のオーラといい、陛下以外ありえないだろう自分と思わず溜息が出た。
びしょぬれの服を脱いで、シャワーを浴びて、使用人の服まで借りた私に彼が提案したのは、王宮のメイドだった。
経歴も資格も不問でなにより給料額が現在の数倍という高額。
記憶喪失(嘘だが)で元雇い主に追われている私としては願ってもない良案だった。ただ一点、原作の人間にこれ以上近付いてしまうと言う事を除いては。
背に腹は代えられない。
自身よりも明らかに大きい窓をごしごしと拭きながら思った。
関わるわけには絶対いかない。私が望むのは安心で平凡な一般ピープルの生活であり、剣術や譜術や世界の存亡や預言や少年の成長やレプリカの関わる冒険ではないのだ。
ちょっとばかしその中のキャラクターの長年のファンだろうと、我慢、我慢。
触らぬ神に祟りなし。痛い思いはしたくない。
「…ふう、終わった」
有難いことに日本人特有の真面目さか本来のものか、とにかく私は数日で真面目な子として認識されたようだった。ちなみに周囲との関係も基本的には良好である。
← back to index
template : A Moveable Feast