ぎこちない態度だけが唯一
ドリーム小説 初めて出会った時のその人の事は、正直殆ど覚えていない。
その日は死んだとされていた(勿論私たち兄弟は信じていなかったけれど)私の兄の親友が生きていたと聞いた日で、私はやっと見つけた彼に人目を気にせず抱きついてしまったから。
しっかり私を受け止めたくれたその人が、赤い目を細め、少しの本物を混ぜて笑う。
その幸せに私は舞い上がり、彼の連れていた人たちのことは余り記憶に残っていない。

ただの使用人であり情報としての優先度の低い彼はその後、私にとってだけではなく、マルクト帝国に取って急に重要人物となった。
ホドの遺児ガイラルディア・ガラン・ガルディオス氏はマルクトの過去の罪を突きつける厄介な存在である。
だから保護し、伯爵にし、家の復興を助ける。
それが私の彼への考えであり、人としての彼とかかわるまでの偏見であった。

ああ、一伯爵にブウサギの散歩を命じるような兄に私は感謝しなければならない。
『えっと、お久しぶりです殿下』
『……ここで何をしているんですか、ガルディオス伯爵』
ブヒ、ブヒとうるさい兄の愛玩動物に囲まれながら、その一つを抱いたまま私を見た彼に私の『厄介なガルディオス氏』のイメージは崩れ始めたのだ。





「なるほど、それはやっかいですね」
「厄介すぎるわ」
はぁとは仕事中のジェイドに向って息を吐き出した。厄介だ。
そうが昔読んだ何かの小説に書いてあった。
恋はするものでなく、
「落ちるもの」
意味が分らないと、一瞬赤い目がをみ、しかしすぐに報告書へと戻っていった。
そもそもジェイドに相談している辺りから間違っている気がしなくもない。
つい二年前までおそらく好きだった初恋の人。おそらくなんていうのは、その恋が私のジェイドに向ける気持ちと、ピオニーに向ける気持ちが同じだと気付いて、終わったからだ。
でも、それだけじゃなかったことも気付いてるし、ジエイドがそれも含めて全てお見通しで変わらず私に接してくれたいる事も分っている。
そもそも王族の私たちに友達は少ないのだ、この男で我慢しないと。仕方がない。
「何か今、失礼なことを考えませんでしたか殿下」
「………否定はしないわ」
「まったく、相談にのれというから聞いているですよ?」
仕事をしつつ馬鹿な恋愛相談に乗るのがどれほど面倒かぐらいわかっている。
「感謝してるよ。けど、こればっかりはしょうがないというか、どうにかならないのかしらあの男」
どうしてそう、にこにこして人々を惹きつけつづけるのだろう。
きらきら光る金の髪、マルクト人の好きな青い目、やわらかい雰囲気、紳士的な態度。
むすっと膨れたに、そろそろガイが来ますよとジェイドが声をかけた。





殿下は国民的人気者だ。さすがにピオニー陛下にはおとるものの、気さくな態度と丁寧な仕事ぶりで殿下を嫌う物はそうそう貴族内にもいない。
そんなサキにはたいそう結婚したいと思うものが多いらしい。自身は、陛下よりも先に子供が出来き、後に陛下の子が生まれた場合がややこしいといって結婚を断り続けている。
でも俺は本当の理由を知っている。
それは俺がまだ旅の途中で、アクゼリュス崩壊後はじめて、グランコクマに足を踏み入れた時のことだ。
突然、ジエイドに駆け寄り抱きついた女性。
『よかった…!!』
その涙が視界に入ったとき、ジェイドにも好いてくれる女性がいるのだと安心したのだ。
その女性を後に好きになるとは思わずに。
はジェイドが好きだ。だから、断り続けるのだった。





を探している時、ジェイドの執務室を訪れることになるとガイはいつも少しだけ胸の痛みを感じる。少しでも長く二人っきりにさせてあげたいという気持ちと、今すぐ引き離したいという気持ち。自分をに邪魔だと思われたくない気持ち。それらを全て押し込めるから、少し痛い。
「どうぞ」
ジェイドの声が聞こえれば入るしかない。
「殿下お迎えにあがりましたよ」
「ごくろうさま。じゃあねジェイド」
「仕事頑張ってくださいね殿下」
お決まりのセリフに、殆ど変わらない返答。
それまで何を話していたのかは、まったくわからない。
殿下に続いて外に出て戸を閉めようとした時、席を立ったジェイドがガイに手招きをした。
「                」
え、と思わず声が出た。
「ガイー?」
「あ、はい直ぐ行きます」
殿下の声にそう答えてジェイドに振り向くが、無言の笑顔でガイは部屋の外へと追い出されてしまった。
「・・・どういう意味なんだ?」
内心で思いっきり首をかしげて、けれど今は貴重な時間なのでとりあえず考えるのは後にまわしての後に付き添う。
執務室の並ぶ軍部を出れば、王宮へと繋がる開放された広場に出る。
いつもは道すがら、ここで数人の国民に声をかけてから王宮へと入る。
危険であるという護衛側の言葉に、国民の生の声を聞けるチャンスを逃す気はないというのがの言葉だ。
「・・・・・・?」
だが、今日はすっと人々を避けるように広場を通りすぎて行く。
「どうかなさりましたか?」
「え?・・・気にしないで」
珍しい。
ジェイドと話した後のはその時の機嫌は悪くとも、大抵帰るうちに笑顔になり国民に声をかけるのに。
「ジェイドと何かありましたか?」
出すぎた真似だと思いながら尋ねた。
振り返って、ううんとは否定する。
「・・・ガイは、さ。好きな子いる?」
どきっと心臓が跳ねた。
「ええ、いますよ」
心臓の音が速いのを気づかれそうで、から視線をそらしてガイは答えた。
「その殿下は・・・?」
気になって、の方に視線を戻すと、いつのまにかの顔ははっきりと真っ赤になっていた。
「・・・っ、いるよ」
の目が少し潤んでいる。泣きそうだ。触れたい。
そうガイが思ったとたん、それが聞こえたかのようには背を向けた。
「ごめん余計なこと聞いたね」
「いえ。私の方こそ・・・」
そう言ったの声はなぜか硬くて、答えたガイの声もまたなぜか硬かった。
けれど赤い耳はを送り届けるまで髪の間からちらちらと見えていて、そしてガイの心拍数も同じようになかなか遅くはならなかった。
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