作り上げたのは本当のつもりだった
わかっていた、わかっていた。叶わないことぐらい。…敵わないことぐらい。
シンクを見たその時ではさすがになかってけれど。彼の部下として傍にいる時間が一年になるころにはもう気付いていた。彼にとっての一番が誰かと言う事ぐらい。わかっていた。知っていた。確かめるまでもなく。言葉にすることも出来ないほどの圧迫感。私の胸を締め付ける、嫉妬で狂わす彼女。彼女が誰を見ているのかも、彼が誰なのかも。どうしてかなんてわからなかったけれどシンクが彼を、罵倒し、嫌悪しながらも羨望し、羨ましいと思っている事も知っていた。
でもそれがきっとこういうもので、病気みたいなもので、外に出さなければいいんだとそう思っていた。だから言わなかった。だれも知らなかった。何もしなかった。だから彼女は笑ったままだった。

「え・・・?」

死んだ。彼女が。
それはよほどシンクが彼を嫌悪しながら羨望する理由を知ったときよりも強烈で。
うそ、嘘だ嘘だ嘘だとこの唇が繰り返したのは何故。
彼女なんて消えてしまえばいい、死んでしまえばいいと思っていた。
貼り付けた笑顔で彼女に近づいて、彼女のくだらない悩みも、彼女が死ぬ年も知っていた。
だからそう、今年死ぬことは分かっていた。
なのに何故。

寂しいかと大きな手が私の頭を撫でる。
寂しい?寂しいってなに。
だってそんな事ありえない、私は、だって彼女に。・・・何を言っているのだろう私は。
寂しいなと大きな手は私を引き寄せる。
墓を作ってやろう。
墓と私は繰り返す。
墓。死んだ人が入るところ。誰でも最後にたどり着くところ。お別れを言うところ。
鼻がつんとする。
何だか体の内側が圧迫される。苦しい。苦しいよ。
苦しい?と大きな手は言った。
泣いていいんだ。
泣く?聞き返すよりも前に視界が滲んだ。
ぽたぽたと水が目から落ちていく。
何てことだ。私は彼女を。何てこと、馬鹿みたい。
もう私に出来る事なんて、何もない。馬鹿だ。

抑えられなくなった声が出たとたん、私は大きな手に飛び込んでいた。わあああぁあああああぁあ!と私の声があたりに響く。大きな手が私の背を撫でてくれる。
わあああぁあああぁあ!と馬鹿みたいに大きな私の声は収まらず。丁寧に置かれた彼女はただピンクの髪を少し揺らしただけだった。
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