偽物とふたり
ドリーム小説 親しい者でなければ、誰が誰かわからない。
ハロウィンというよりは仮面舞踏会のような様子の大広間を抜けて、少し外れた柱の後ろに背中をあずける。
ぼんやりとカボチャのかぶせられた廊下の光を見つめた。
本当はレギュラスの横でにこりと笑ってるべきなのだろう。婚約者としては。
しかし未だ身分違いだと思うものも多い恋仲二人。
なのでレギュラスが名家の令嬢と話し始めた時、少し不自然なほどににっこりと笑ってそれを促した。
不審に思われていなければ良かったが。
スリザリンに囲まれて、挨拶ばかりで、飲み物は口にしたがろくに食事もしていない。せめて声をかけられずに食事をさせてほしい。
キャーキャーと言いながら駆け抜けて行った下級生の一人を見て、いいことを思いついた。
杖を一振り、茶色い布をすっぽりとかぶる。
組み分け帽子の完成だ。



「…、だよね」

ツンツンと腕を突かれて皿を持ったまま振り向けば、そこにいたのは狼…いや、狼男。
獣の鼻の着いた顔をじっと凝視すれば、ある人物になった。

「ルーピン?」
「正解!」
「…良くわかったね」

まあねとルーピンは笑う。
料理の味だけはちゃんと感じ取らないと。
暫く話しながら互いに食べ、ぎこちないとわかりながらも頬笑みを交わす。
少し出ないかと言われ、綺麗に包装されている菓子を幾つか手に持って了承した。
レギュラスの(というより周囲の)様子を見る限り、しばらく戻らなないほうが良さそうだ。
公式に発表になるまでは、避けれる障害は避けるべきだ。レギュラスもそう思っているだろう。
先ほどの廊下を抜け、人気のない廊下をルーピンの背を見ながら進む。
薄暗い廊下を吹き抜けた風にルーピンの狼の耳が揺れる。
どうしてだろう、普段よりもよほど恐いはずなのに全然恐くない。
彼は人間じゃない。本物の狼男なのに。

「…ルーピン」

どうして私は大人しく付いて行く?
魔法で作られた満月が光る廊下で、ルーピンは足を止めた。
本当の満月の日は、この先週の休暇あたりだったはずだ。
ならばこの狼の衣装の下には白い包帯が、そしてさらに下には生々しい傷があるのだろうか。
本物でない見事な満月に、奇妙な私達。

?」
「綺麗な満月だね」
「…そうだね」
「誰が作ったんだろう。申訳ない」
「…え?」

不思議そうな顔をした彼の前で、杖を一振り。
パン!と満月は弾けて、無数の光の線を残して消えた。

「っ!……、君」
「はい?」
「…………ううん、いいんだ」

恐らく彼は、この行動の意味を知りたかったのだろう。
でも、教える気は無い。

「ルーピンはこれから?」
「そろそろ部屋に戻って寝ようかと思って、君は?」
「いい加減、戻らないといけない」
「そっか、じゃあ」
「うん。おやすみ狼男さん」
「お休み黒猫さん」

大広間に戻りながらはたと足を止めた。今の私は組み分け帽子のはずだ。
おそらく寮で、リリーやジェームズあたりから知ったのだろうけれど。

「………やっぱり怖いかも」



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