ブラックの家出
ドリーム小説 レギュラス・ブラックが我が家に来ても、私の日常は相変わらずだった。
彼はあくまで「優秀なフェルリナ」の先輩にして友人であったし、その相手をするのは当然フェルリナであったからだ。
何も(両親に)望まれぬのに彼の傍をうろつく必要もない。
よって私がレギュラスと顔を合わせるのは夕食時だけであった。
本当は朝食も出席すべきなのだろうが、どうやら私は朝に弱い設定になっているらしい。何ともまあ名家のお嬢様らしくて似合わないことだと、フェルリナと笑った。
たしかに私はホグワーツでリリーに起こされていたが、それは(リリーが起こしてくれると安心して)私が夜更かしをするからであって、何らかの理由でリリーが起こしてくれずとも授業に遅れない程度の時間には起床することが出来ていた。
寝起き90%悪魔なクィリナスや、言うならば魔王のような声を出すセブルスよりは随分とましなはずだ。といってもさすがに生でそれを見たことはない。一度ぐらいスリザリンの寮に行ってみたいものだ。
大騒ぎになるのは目に見えているし、おそらく色々な意味で無傷では帰れないだろうけれど。

「で、何故ここにいるんですか?」

レギュラスが来た日に採取した薬草で簡単な実験をし、再び裏山へと足を向けた本日。
我が家のお客様は待ち構えていらっしゃった。
柔らかそうな草の上に腰をおろし、彼の手には本。あからさまな待ち伏せだった。
ちなみに、その魔法薬学の本には少し興味があったりするのだが、天下のブラック家の方にそんなことを言えるはずもない。
というか面倒なことになりそうなので却下。

「フェルから今日あたり貴方がここに来ると聞いたので」
「何故私に会いに来たのかと尋ねたのですが、ミスター・ブラック」

少しばかりきつい言い方になってしまった。
けれどそれも仕方がないと思う。
イレギュラーな今の彼の行動は場合によってはここで一番避けたいものを引き寄せるのだ。必死とまでは行かなくとも、慎重にそれを避けて過ごしている私の身にもなって考えてほしい。まあないが、もしかしたらフェルリナにも災いが降りかかることもありえるのだ。
本当に邪魔な人達だ。
そして当然だけれど、目の前の男自身には何も降りかからない。私は安全地帯にいる人間とはどうにも攻撃的になってしまう。
フェルリナやクィリナスはきっとそんなことはないのだろうけれど。
あえて言うならば…私と同じ事をしそうなのはセブルスだろうか。
またしてもセブルスとの共通点を発見してしまった。

「…レギュラスと呼んでください」

改めて正面から見れば、やはりシリウス・ブラックに良く似た顔。でも近くで見れば見るほど別人だとわかる。
レギュラス・ブラック。
私達と良く似た彼は、けれど私達とも彼とも違う存在だ。
当然だけれど。



セブルスを尊敬しているという彼は、薬学に興味があるといってちょくちょく私と行動を共にするようになった。
彼を見る限りそれは嘘ではないだろう。けれど私は、本当のところはあの両親から逃げてきているのだろうと思う。
フェルリナは詳細を言わないけれど、まああの人達の事だ、おおよそシリウス・ブラックとレギュラスを比較したのだろう。頭の固い純血一族がやりそうなことだ。
シリウス・ブラックがグリフィンドールに入っていなければ。
言わずとも視線や言葉の端々でそういうことは感じられる。言われるものの首を締め付ける。

「シリウス・ブラックが家出…?」

そして今はジェームズのところにいるという。
ジェームズは賢い。
フェルリナ経由で渡されたこの手紙も、友人の家出を喜んで知らせたのではなく、私の怪我やおそらく噂やブラックからの話しなどを総合して、影響があるだろう私に伝えておくべきだと判断したのだろう。
さすがに全てを見通しているとは思わないけれど。
そして彼の想像通り、これは大事件だ。
私の役目は変わらないだろうけれど、もしかしたら両家の約束が無くなるかもしれない。
もともと何とかして自分で相手を作るつもりだったとしてもこれは大きい。
それとおそらくレギュラスが正式に次期当主になるだろう。
家に帰って、親に忌み嫌われる兄がいないというのはいいのか悪いのか。

ああ、嫌だと思った。
この純血の世界が、この家名が、負わされた役目が。
だれもかれも、何と息苦しいことか。
本当に純血が揃いも揃って他を見くだし、攻撃的になる理由がわかる気がしてくる。
そうしなければおかしくなってしまいそう。否そんなふうにおかしくなってしまわなければ、この閉塞感に大切なものを傷つけてしまいそう。
ブラックもそんなふうに思ったのではないのだろうかなんて思う。だから家出をした。
あの単細胞が他人の事を気にするとも思いえないけれど。本能での回避なら得意そう。
彼にとって大切なものにレギュラスが含まれるかはわからないけれど。
そして、私達兄弟はそうはならないけれど。まず最初に傷つけるとしたら、あの両親から。
駄目だと被りをふる。
早くホグワーツに戻りたい。生活の場が変わるだけだけれど、役目もこの身に通う血が変わるわけでもないけれど、それでも構わないからとにかくここにいたくなかった。


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