引き籠る
ドリーム小説 足を治しながら、私の夏休みは本に埋もれながらつつがなく過ぎて行った。
まあ、他の学生達と違うところは両親にとって無いものとして振るまうぐらいのことだ。
慣れてしまえば簡単なことだったし、ありがたいことにその道の先輩も兄弟にいた。
そして何よりそれに失敗した時の面倒さにより上達するのは早かった。
朝は普段と変わりなく起きて本を読み、ラナが運んできた朝食を自室で食べ、読書をして、同じ様に昼食を食べ、間にお茶をしながらまた読書をして夕食を食べ、シャワーを浴びて読書をし、フェルリナの様子をラナから聞いて寝る。
数日に一度、フェルリナが訪ねて来たときだけは、本を置いて談笑する。そしてフェルリナ経由で交わされる手紙は週に一度ほど。
私にとっては何の問題もない生活だったけれど、余りに部屋を出ないとラナが心配をするので朝夕を狙って時々は外にも出た。
そんなある日の夕方、ここ一年セブルスのおかげで魔法薬学の楽しさに少し目覚めた(そうなると知識だけ詰め込んでいた自分の何と勿体無いことか!)私は、なので本にのっていた簡単な物でも作ってみようかと思って外に出たのだが、意外とその材料となる植物が抜けにくい。
両手で掴み体重をかけて引っ張る。
少し動いたが、まだまだのようだ。
痺れた手をパタパタと振る。
本当はここはの屋敷の範囲内なので魔法を使えば速いのだが、それはなんだかそれは負けた気がする。
何にかというと、ホグワーツでいつも地道に材料集めをしていたセブルスにだ。
眉間に皺を寄せながら黙々と戦っていた友人を思い出して、思わず笑ってしまった。
思えば、休暇にこんな風に友人を思い出すのはクィリナス以外初めてだった。

空が暗くなった来た。そろそろタイムリミットが近い。
こっそり禁じられた森に踏み込んでいた私にとっては、裏山での夜はそれほど怖くもなんともないのだが(よほど人間の方が怖い)、ラナや万が一にもフェルリナを心配させるわけにはいかない。
もう一度と力を入れた時、何と上に手が重ねられた。
細くて指が長く白い、けれどまごうことなく少年の手だった。
その人の手が離れ、私の手に抜かれた薬草が残る。それを籠に入れて振り向けば、そこにいたのはレギュラス・ブラックだった。
…消去法でてっきりフェルリナだと思っていたので驚いた。

「こんばんは、ミス・
でかまいません。ミスター・ブラック」

相手の表情を見て、切り替える。
見るものすべてが名家の人間だと認識するような、貴族然とした、知的で隙のない、優美な笑いを私は浮かべる。
(鏡で見て思わず寒気のしたこの表情も)慣れたものだ。
と同時に、フル回転でこの状況の言い訳を考える。
ブラックの人間にマグルのようなこの姿を見られたのは不味い。の屋敷で魔法を使えることは純血の世界では有名なことであったし、それはの誇り(私は全くそう思っていなかったが)らしい。
触れないでおくのが賢明か。
そんなことを私は思っていたのだが、対していたブラックの次期当主様は頬笑みからなぜか驚いた顔をした。
このような切り替えし、それこそ慣れているだろうに。

「あなたは…あなたもそうなんですね」
「?どういう意味でしょうかミスター。それともサー?」

一部からは純血の王族のように扱われるブラック家。
望むのならそう呼ぼうかと言うと、いやと首を振って拒否された。

「あなたもフェルも汽車で合った時とは別人のようだから」
「…それは貴方もです」

だから私もそれに合わせたのだ。そしておそらくフェルリナもそうだろう。

「僕は…いや、僕はさんと友人のフェルに会いに来たんです」

そう言って彼は笑った。
ああ、この表情には覚えがある。
痛みを伴った表情。

「……」

唐突に理解した。
この人も同じなのだと。
フェルリナと同じ。順序は逆だけれど私と同じ。
誰もフェルリナを見なかったころ、彼は誰を見ていたのだろう。
私はシリウス・ブラックを見ていた。レギュラス・ブラックのこのとは認識しても注目はしなかった。
それが普通で、当たり前だった。
一体、この人は私が望んで居座るここに何を思いいたのだろう。何を思いあそこにいるのだろう。
そしてい続けるのだろう。
フェルリナの友だというこの人は。



表面上のレギュラスを加えた一家団欒を終えて部屋に帰った後、すり減りぴんと立った神経を緩めようとしながら、それでも私は彼の事を考えていた。

「…様?」

部屋に入ってからというものの常に本を傍に置いている私が真剣に考え事をしているものだから、食事中厨房にいたラナは両親が何かしたかと心配したらしい。それに笑って何でもないと答え、人の気配を気にしながらシャワーを浴びに一階へ行く。
そう言えばどうして今日は彼の気配に気づかなかったのだろう。隠れ住む私の気配に対する敏感さは相当なもののはずなのだが。まさかセブルスの事を考えていたせいか。
それとも彼に何かあるのか。
シャワーを浴びて部屋に帰ると、フェルリナが来ていた。

「姉上」
「…」

何だか美しい微笑みに威圧感を感じるのですが弟よ。
何か策を練ってませんか。まあ、私に害は無いだろうけれど。
私たちのかぎってそれは無いし、私はあの時から最後はこの子を守ると決めていた。
けれどそれは一瞬で、その後は何時ものように和やかに過ごしたのだった。


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